見るなキタ━(゚∀゚)━!

トイレの「小」の方で流せるタイプの文章を書きます。そしてお前を許さない。

小説『スタープレイヤー』

小説『スタープレイヤー』読みました。

恒川光太郎。読むのに時間掛かっちゃったことと、恒川光太郎に期待してた異界感ホラー感も弱かったので「どうかなあ」と思ってたけど、終盤のたたみ方とスケールの大きさや祈り願いが良かった。

 

あらすじ

かつて通り魔に襲われて足が不自由になり職も失い未来への希望を無くした34歳の元派遣社員。彼女が足を引き釣りながら麻婆茄子の素を袋に入れて帰宅していると、目の前に奇妙な人が現れくじ引きをさせられる。カランカランと出た一等の景品はなんとファンタジーのような異世界への転生とどんな願いでも10個叶える権利を持つ「スタープレイヤー」という力だった。

半信半疑だったが、説明を受けたり能力を使い宝石を散りばめた豪華な庭園などを作っていく内に信じるようになり、自分の身体も健康な絶世の美女へと形を変える。

そしてある日、ずっとひかかっていた「自分を襲ったやつは誰か」を確かめるために「自分を襲った人を牢獄に元の世界から呼び出す」という願いを叶える。

最初はそいつに自白させ恨みを晴らそうと思っていたが、精神的な病気を患っていてどうしようもなかったと切羽詰まった顔で言われたことで、虚しくなり犯人を元の世界に戻すことにまた願いを一つ使う。

彼女は寂しくなり男を呼ぼうかと脳裏をよぎるが、昔不倫をしたことがあり夫に逃げられた経験から、「他人を自分勝手にどうこうすることは出来ない」と知っていた。

ある日、他のスタープレイヤーから連絡が届いて、この世界には他にもスタープレイヤーがいること、土着の民族や国家があること、スタープレイヤーに元の世界から呼び出され仕方なくこちらで暮らすことになっているルーバンスと呼ばれる人たちが居ることを知る。

彼女はマキオというスタープレイヤーが族長となっているタワー村と交流をし、この世界がどうなっているのかを知っていく。

そしてその過程で近郊で最も大きな国、ラズナに挨拶に行くこととなる。

ラズナは隣国トレグと戦争状態にあり、流れ弾が飛んでこないように挨拶だけしておこうということだった。

しかしそこで出会った元の世界でのハリウッド俳優スカイレッド・クーガーこと元ラズナ国将校ラナログ・スウォードが反乱を起こしラズナを潰しトレグに寝返ったのである。

タワー村にやってきたラズナの王子からその事実を聞き、王子や難民を守るためにラナログ率いるトレグ軍と戦うことになる。

まずラナログは話し合いの余地を付けてきた。彼はスタープレイヤーのことを知っており、誰がスタープレイヤーかを探っていた。主人公は彼との話し合いの中で彼がここに来てから起こったことを聞いた。

彼はこちらの世界にある「フーリッシュサークル」というところに呼び出された。色んな元の世界の人間が呼び出され、愚王なるものの言うことを聞き学校に行ったり仕事をしたりとゆったり生活するように命じられた謎の街である。

そこでシンシアという女性に会いお互い恋に落ちたラナログ。しかしここが何で何のためにある場所かは分からない。

すると愚王の使者が現れる。彼は本当は使者ではなく、愚王の親戚でこちらの世界に来ており遊び相手を欲しがっていた。ゲームで遊ぶ内に仲良くなりフーリッシュサークルの成り立ちを知る。

実は大叔母はスタープレイヤーであり若返りシンシアとして「恋愛ゲーム」をするためにこのフーリッシュサークルを作った。そしてその攻略対象としてハリウッド俳優であるラナログが選ばれたのである。

ラナログはその事実を知り真実を探っていく内にシンシアを殺すしか無いことに至る。

しかし殺そうとしても曲がりなりにも愛した女性を手にかけられず見逃してしまう。

次の日目覚めると街は消えており「コレで満足?ばいばい」の置き手紙。

どうにか生き残るためにこの世界を彷徨い今に至るという。

交渉決裂した主人公たちとラナログ。ラナログが攻め込んでくる前に一連の戦闘で死んでしまった者たちを蘇生させたり巨大な街を作り鉄道を敷いたりし、襲撃に備える。

だがそうまでしても、主人公は奇襲に遭い仲間は殺されトレグ兵に幽閉される。

もう終わりかと思った瞬間、トレグ兵たちがバタバタと死んでいく。

ラズナの王子の友人である透明人間になった別のスタープレイヤーが助けてくれたのだ。

主人公はこの戦争を終らせるために、人を殺すのではなく示威行為として巨大な翡翠の迷路に敵兵を閉じ込め降伏するように促した。

戦況が逆転しラズナは統一され平和が訪れる。

そして主人公は最後の願いを戦闘で死んでしまった人たちの蘇生、あらゆる人の病気の回復、街の発展などに使う。

あと一つだけ願いが残っているが、彼女は「願いを取っておくこと」を願い、物語は幕を閉じる。

 

みたいな

数字は適当。

 

感想(前置き)

評論ではなく好き嫌いですので。

 

感想

恒川光太郎さんは多分書きながら考えるタイプで、そのライブ感で予想もしなかった遠くに連れて行ってもらえるのは好きなんだけど、ぶち抜くような一貫性があるかと言われればそうではなく、ちょっと後付っぽいので途中「これ何の話なんだろう?」と思って手が止まってました。ただ最後まで読んで振り返れば納得できるし「そう結論づけたのか」と思える。それに起きる出来事や取り返しのつかなさの割にかなり爽やかな読後感で良いんですよね。

 

何って、主人公が整形したこととか異世界に来たことを咎めないのよね。

元の世界に戻って現実と向き合う、というようなこともなく、異世界で生き直す。異世界がただの都合のいいだけの世界じゃなくしっかり社会があるからそんなに気にならないけど、その結末で爽やかな風を吹かせて終わるのは結構珍しい気がする。

道徳や倫理の話ではなく、個々人の幸福の話をしてるのが潔い。

結局「身体を美人に作り変えてるけどいいの?」「元の世界に帰らなくていいの?」なんて疑念は他者で傍観している「そこに居ない」自分が引っ張り出してきたお節介な倫理なので、人が生き幸せになるとはどういうことなのかって点ではどうでもいい。

どうでもいい中で人と人が暮らす社会でどうすれば良いか、なにをしてよくてなにをするのは忌避したいかっていうね…。

他の恒川光太郎の作品でも結構、根本の問題(今回だったら異世界転生)自体は解決されないけど幸せになるって話ちょこちょこあって面白い。

 

良かったのは、絶体絶命のピンチから救ってくれた人が「透明人間になる」という願いを叶えてたことと、その人の言う「何を叶えるかを人に聞くな。スタープレイヤーはすべてを変える。だからこそ自分で選んだことに使うべきだ」という文言。

まず主人公含めてみんな私利私欲だったり人を生き返らせるとか街を作るとかでかいことに使ってたので「透明人間」という願いに意表を突かれた。「もしも願いが叶うなら~」という小話では絶対に出る話だけど実際には誰もやらない。けど「本当の本当に自由だったなら」好きなことをやるんだ、って結論にも繋がっている

 

そして何でも出来るのに自衛のために兵器を呼び出そうとする人たちへの問い、「何でも出来るのに」。

それはスタープレイヤーだからというだけでなく、本当は私達「何でも出来るのに」他人を勝手に呼び出して恋愛ゲームをしたり、戦争したり、自力で作れるかも知れない街を作ったりする。

主人公は、だけどスタープレイヤーとして力を持ったものの責務として、民衆の莫大な願いを聞き入れ叶える。これがこの国の始まりとして、期待と光に満ちた未来の一歩目なるよう祈りを込めて…。

 

その町の名前が「麗和」なのが奇跡的で良いですね。たまたまだけど令和の英訳が「Beautiful Harmony」らしいから綺麗に掛かってる。祈り。

 

ここの願いを叶えるボタンを押す演出も良くて、「私の意志を超えた、数万人の大勢の人々の願いと希望を背負って」震える指で新しい国の始まりとしてのボタンを押す。というのが、個人がやることなんだけど一人の意思を超えて民衆の願いをってのがスケール感じて好き。エヴァとかさ、まどマギとかも最後世界を変える願いを放つでしょう?あれ好きなんだよね。

 

「そういう方向性なのね」と分かると序盤で主人公が復讐をしようとすることの意味や、フーリッシュサークルのエピソードがなんのためにあったか分かるので急に面白くなる。

復讐をしようとしても、もしかしたらゲスな相手にも悲しむ人はいるかも知れないし、何か未来を奪っているかも知れない。私利私欲のために何かをしても結局憎むべきゲス野郎と何も変わらないのでは?

だったら願いとは何のためにあるのか。幸福とはなにか。

 

フーリッシュサークルのエピソードがすごい好きで、単純に可愛い女の子にもてあそばれるのが好き(笑)

その女の子は齢80近いおばあちゃんなんだけど、ラナログからしたら「騙してるのは本当だよ。定期的に街の人を入れ変えて恋愛ゲームしてる。でもそれも飽きたから殺してくれていいよ?ほらナイフ握って」とかって言われてもふざけてからかわれてるようにしか見えないとか、すげえ良いんだよね。キャラが良い。殺そうとしても殺せなくて「あなた今一番良い顔してる」「人生で一番ときめいてるかも」と言ってきたり実際殺せなかったら「優しいもんね。期待通りで期待はずれ」とか言われるのはもう、性癖ですね、性癖。

その後のラナログ以外街ごとすべて消えて「これで満足?」の置き手紙。追伸で「じゃあどうすればよかったの?なにもない荒野に一人ぼっちだったんだよ?」って書かれている寂しさがまたね。

 

でも一人ぼっちだったからと言って私利私欲のために使ったって、結局怨恨しか残らないって方向になってるのも良かった。騙され利用されたラナログが「何でも叶える力」を嫌い恐れ憎み「夢は自分の力で叶えるもの。世界は知恵と勇気で切り開くもの」がかなり大事な台詞となったことが良い。後付だろうけどね。

 

諦めて仕方ないというのは魔法の言葉。心地の良い眠りのようなもの。

理想を叶えられるなら、仕方ないで済ませずに出来ることをやらなくちゃ。

 

どんな願いでも叶えられるという設定でここにたどり着くのが好きだな。スタープレイヤーだけじゃなくて、人々の生き様の話だよね。

 

他にもちょこちょこ好きなシーンや出来事はあるけど、きりないし性癖の話も多いのでこのへんで…。

 

終わり